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秘密 朝吹真理子 秘密 朝吹真理子
学生時代、パリでソフィという女の子と友達になった。ソフィは日本食レストランでバイトをしていて「なんで日本人っておしぼり好きなの?」とやにわに話しかけられたことで親しくなった。ソフィが、シェアハウスでサンドイッチパーティを開くというので週末の夜に遊びに行った。パーティがはじまる前に着くと、ソフィは窓から大きく手を振る。ソフィの部屋に入るのははじめてだった。彼女の部屋には香水壜がいくつも並んでいた。ソフィは鏡をみながら赤いリップを塗り、気になる男性もパーティに呼んだのだと言いながら、香水壜をにらんでいた。彼とは、映画をみた後にスタンドで飲んだのが一回、ランチも一回した。ディナーはまだ。ソフィは、今日のパーティで彼の気持ちをさぐるつもりだといくつもある香水壜のなかから、ジャスミンの官能的な香りのする一本をとって、シャツをまくりあげて腰につける。それから、もう一本。シトラスのフレッシュな香水を天井にむかって二度ほどプッシュすると香りの霧にもぐるように身体全体に軽やかに香りを纏った。香水は重ねるもの、欲望の甘い香りを、爽やかな香りで隠すのだと、いたずらっぽく言った。 学生時代、パリでソフィという女の子と友達になった。ソフィは日本食レストランでバイトをしていて「なんで日本人っておしぼり好きなの?」とやにわに話しかけられたことで親しくなった。ソフィが、シェアハウスでサンドイッチパーティを開くというので週末の夜に遊びに行った。パーティがはじまる前に着くと、ソフィは窓から大きく手を振る。ソフィの部屋に入るのははじめてだった。彼女の部屋には香水壜がいくつも並んでいた。ソフィは鏡をみながら赤いリップを塗り、気になる男性もパーティに呼んだのだと言いながら、香水壜をにらんでいた。彼とは、映画をみた後にスタンドで飲んだのが一回、ランチも一回した。ディナーはまだ。ソフィは、今日のパーティで彼の気持ちをさぐるつもりだといくつもある香水壜のなかから、ジャスミンの官能的な香りのする一本をとって、シャツをまくりあげて腰につける。それから、もう一本。シトラスのフレッシュな香水を天井にむかって二度ほどプッシュすると香りの霧にもぐるように身体全体に軽やかに香りを纏った。香水は重ねるもの、欲望の甘い香りを、爽やかな香りで隠すのだと、いたずらっぽく言った。

朝吹真理子
1984年生まれ。東京都出身。作家。慶応義塾大学前期博士課程修了。2009年『流跡』でデビューし、同作で2010年『第20回Bunkamuraドゥマゴ文学賞』を最年少受賞。2011年『きことわ』で『第144回芥川賞』を受賞。