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2017.5.26 Fri

Who’s Calling? (1942)

私はミステリーを読む時、容疑者として出てくる女性たちが着ている服が気になります。洋服は時に言葉よりも雄弁にその人を語ります。更に言えば、ブラウスやドレスの下に身につけている下着ほど、その女性の秘密を物語るものはないのではないでしょうか。
 ヘレン・マクロイが1942年に書いたミステリー『あなたは誰?』は一本の電話から始まります。ニューヨークの高級アパートで、その電話を受け取ったフリーダ・フレイはナイトクラブの歌手。まだ二十歳ながらセクシーな魅力で人気をつかみ、ついでに精神科医の卵であるアーチー・クランフォードの心もつかんで、婚約したばかり。その婚約者の実家に向かう前に、彼女は匿名の電話でそこに行くなと警告されます。
 この小説では、アーチーの母のイヴ・クランフォードが、フリーダのトランクに入っているランジェリーに目を留めるシーンが印象的です。彼女が薄紙で包んで持参したのは「目立つレースの縁取りがある繻子(サテン)のスリップ」。そのどれもが淡黄色や薄紫といったパステル・カラーなのは、ブロンドの髪とグレーの目に映える色なのだからでしょう。そんな繊細な下着は普通の洗濯機と洗剤で洗ったら、繊維を駄目にしてしまいますが、フリーダが自分でスリップを手洗いしているようには見えません。イヴは彼女が下着を「一流のフランス系のクリーニングかドライ・クリーニングに毎週出しているに違いない」と推理します。フリーダはお金のかかる女なのです。

当時は複数の種類の生地が使われた服や、高級なランジェリーは一般人の洗濯の技術で手に負えるものではありませんでした。フランスのクリーニング業界はレースや繊細な生地の扱いで有名です。十九世紀の半ばにアメリカの西海岸にやって来たフランス人の移民たちが始めた手洗いと丁寧なアイロンによるクリーニングは人気を集め、企業として大きくなっていきます。1940年代にはその人気が東海岸のニューヨークにも到達していたのでしょう。ランジェリーとクリーニングの歴史が垣間見える、興味深い描写です。

山崎まどか

コラムニスト、翻訳家。映画や音楽、文学などカルチャー全般に造詣が深く、特に女子という軸から紐解く独自の視点にファンが多い。主な著書に『女子日和』(アスペクト)、『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)など。

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