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2018.7.25 Wed

リリーのすべて(2015)

1926年、デンマークのコペンハーゲン。アイナーとゲルダは画家の夫妻。キャリアの差などで波風が立つことはあるものの、二人の愛は揺るぎのないものでした。しかし、フェミニンなものに惹かれるアイナーに変化が訪れます。彼は妻ゲルダのためにバレリーナのモデルの代理を務めるのですが、その際に履いた絹のストッキングのなめらかな感触に打ち震え、繊細なスリッパに見とれるのです。そして決定打は、妻が買ってきたサテンのナイトスリップでした。
柔らかな光沢を放つピンクのスリップは、レース・テープのストラップと少女らしいリボンがついた可愛らしいもの。妻の体を覆うそのスリップに彼は手を滑らせます。翌日、パーティが終わった後に情熱を感じたゲルダがアイナーのシャツを脱がそうとすると、彼がその下に彼女のナイトスリップを身につけていることを知るのです。ゲルダは戸惑いながらも、女もののスリップに身を包んだアイナーを抱きよせます。そしてまるで女性にするかのようにベッドに
導き、優しくそのスリップを脱がせるのです。

ゲルダにとってそれは、夫婦生活にちょっとした刺激を与える行為だったはず。しかし、アイナーにとっては大きな契機でした。アイナーはこれを機会に男性である自分にはっきりとした違和感を感じるようになり、本当の自分に目覚めていくのです。
エディ・レッドメインがアイナーを演じた映画「リリーのすべて」(2015)は、世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・エルベをモデルにした作品です。アイナーはこの後、ウィッグやメイク、ドレスによってリリーへと変貌を遂げていくのですが、その最初にあったのがランジェリーだという描写は興味深いものがあります。直に肌に触れるものである下着を通して、男性の服の下に隠した彼のアイデンティティが見えてくるのです。下着はその人の一番大切で脆いものを守り、かつ触発するもの。ランジェリーによって人生がまったく変わってしまったとしても、それは不思議ではありません。

山崎まどか

コラムニスト、翻訳家。映画や音楽、文学などカルチャー全般に造詣が深く、特に女子という軸から紐解く独自の視点にファンが多い。主な著書に『女子日和』(アスペクト)、『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)など

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