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2018.6.13 Wed

ファントム・スレッド(2017)

1950年代のロンドンのファッション界を舞台にした「ファントム・スレッド」。同時代のデザイナー、チャールズ・ジェイムズやバレンシアガのデザインを参考にしたという華麗なドレスの数々に目を奪われますが、そのドレスに合うシェイプを作るファウンデーションにも注目です。40年代にクリスチャン・ディオールが提唱したニュー・ルックがまだ幅を利かせていた時代です。ボリュームのあるスカートと、きゅっと絞ったウエストのラインがシンボルのニュー・ルックを着こなすには、砂時計のようなスタイルが不可欠。そのため、20年代に一度はすたれたコルセットが復活します。今回はただコルセットでウエストを絞るだけではなく、ガードルで下腹を引き締める必要もありました。50年代に人気があった、ガードルとコルセット、ブラジャーが一体になった上下一体型の補正下着がコルセレットです。1952年にラナ・ターナーが映画「メリィ・ウィドウ」でガーターのついたコルセレットを着ると、これが大流行。以降、この型のコルセレットはメリー・ウィドウと呼ばれるようになります。

映画では、ベルギー王女が着ていたメリー・ウィドウが印象的でした。ダニエル・デイ・ルイス演じるデザイナーのレイノルズにウェディングドレスの発注に来た彼女は、ランジェリー姿でフィッティングに臨みます。彼女のコルセレットは淡いピンクのサテンのサイドとグレイの地にレースを重ねたフロントから成る凝ったデザインで、裾にはレースがあしらってあります。ウェイトレスとして働いていたところをレイノルズに見初められて彼のミューズとなったヒロイン、アルマが最初のフィッティングで着ていた素朴なシュミーズとは対照的です。アルマがベルギーの王女に対する態度は挑発的で、彼の一番のモデルは自分だと主張しているかのようでした。
ベルギー王女のメリー・ウィドウは、50年代にディオールが下着ブランドのリリー・オブ・フランスに作らせたレース・ガードルのデザインを模したものです。「ファントム・スレッド」はドレスだけではなく、その下のランジェリーも、更にはその奥に隠れた人間の心理の描き方も完璧な映画なのです。

山崎まどか

コラムニスト、翻訳家。映画や音楽、文学などカルチャー全般に造詣が深く、特に女子という軸から紐解く独自の視点にファンが多い。主な著書に『女子日和』(アスペクト)、『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)など

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