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2018.12.12 Wed

タンジェリン(2018)

クリスティン・マンガンの「タンジェリン」の舞台は1956年、モロッコの都市タンジール。ヒロインの1人、アリスは新婚の人妻です。夫のジョンに請われてついてきたアリスですが、夫がどんな仕事をしているかもはっきりと知らず、街にも馴染めず、屋敷にこもって孤独に暮らしていました。そこに、彼女の大学時代の親友、ルーシーが訪ねてきます。2人は女子大のルームメイトでしたが、ある事件をきっかけに疎遠になっていました。ルーシーのアリスへの思慕は執着に近く、アリスを苦しめます。過去が影を落とす2人の関係は、やがてモロッコでも悲劇を招くことになるのです。
女子大の寮で同じ部屋に住んでいた頃のアリスとルーシーのルックスは対照的です。両親を亡くした孤独な令嬢であるアリスは金髪で、いつも上品なワンピースを着ています。一方、奨学金を得て名門の女子大に入学したルーシーは肉感的で、大人っぽいスーツが似合うタイプ。ある時、アリスはルーシーが着替えている様子を見て、その豊満な肉体に圧倒されます。
「ルーシーは着ていたブラウスを頭から脱ぎ、ブラとパンティ、そしてガードルではなくストッキングを留めているガーターベルトだけという姿になった」

当時、良家の子女はガードルをはくが当たり前でした。服の下にも鋼鉄の鎧のような下着を着けていたのです。ガーターベルトだけのルーシーがいかに大胆な女性か分かります。
「私は急に、ルーシーの肌の露出具合を意識した。ブラとパンティは色合いの異なる白で、よくある流行のものだった━無地で、シンプルなレースの飾りがへそのすぐ下あたりについている。ブラもあまり飾り立てたものではなく、白い花がひとつ胸のあいだについているだけだ。」
この描写からも分かる通り、ルーシーのランジェリーはごくシンプルなもの。その飾りのなさも、アリスには彼女の自信の表れに見えるのです。しかしルーシーはタンジールからの小旅行で、アリスもまたガードルを外していることに気がつきます。はっきりと分かれていた2人の個性が曖昧になるミステリアスで危険な瞬間を、下着が物語っているのです。

山崎まどか

コラムニスト、翻訳家。映画や音楽、文学などカルチャー全般に造詣が深く、特に女子という軸から紐解く独自の視点にファンが多い。主な著書に『女子日和』(アスペクト)、『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)など

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