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2018.3.28 Wed

サイコ(1960)

サスペンス映画の天才、アルフレッド・ヒッチコック。彼はそのキャリアの初期から、女性のランジェリー姿の効果をよく分かっていました。下着姿の女性はくつろいでいて、無防備で、ある意味ではヌードの時よりも刺激的で危うい存在です。
 ヒッチコックの最も有名な作品のひとつ「サイコ」(1960)では、ヒロインのマリオン(ジャネット・リー)が冒頭からランジェリー姿で登場します。彼女の住むアリゾナ州フェニックスに出張でやってきた恋人と、昼間のモーテルで愛し合ったばかりの彼女が身につけているのは、白いブラジャーと腰を隠すウエスト・スリップだけ。時代を考えると、大胆なシーンです。マリオンが腰だけのスリップを穿いているのは、12月でも蒸し暑いアリゾナの気候のせいなのでしょう。彼女の胸を覆うのは、円錐型のフル・サポート・ブラです。バスト・トップがツンと突き出るような形のこのブラは、その形状からバレット(銃弾)・ブラとも呼ばれています。つけるとそれだけでバストがせり出した形になるこのブラの登場は1940年代。以降、50年代を通して人気がありました。ピンナップ・ガールたちはバレット・ブラで作った胸の形状を際立たせるため、薄手のセーターをよく着ていました。「セーター・ガール」といえば、当時のセクシーな女性の代名詞です。胸元を開けるよりも、むしろ覆った方が色っぽく見えるところにバレット・ブラの特徴があります。

マリオンのシャツ・ワンピース姿からも、バレット・ブラの効果がよく分かります。ベルトで細く絞ったウェストとのコントラストは挑発的なほどです。一方で、フル・サポートのブラだから胸を固くガードしている感じもある。この時代の女たちはバレット・ブラで武装していたのかもしれません。借金のある恋人のために会社のお金を持ち逃げしようと旅支度をする時、マリオンは冒頭と同じようにバレット・ブラをつけていますが、最初の時と違って、そのブラの色は黒に変わっています。そして彼女が寂しいモーテルのシャワーでそのブラを外し、武装を解除する時……本当の恐怖がやってくるのです。

山崎まどか

コラムニスト、翻訳家。映画や音楽、文学などカルチャー全般に造詣が深く、特に女子という軸から紐解く独自の視点にファンが多い。主な著書に『女子日和』(アスペクト)、『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)など

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