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2018.1.26 Fri

アンナ・カレーニナ(2012)

 映画「アンナ・カレーニナ」(2012年)のヒロインの登場シーンで、キーラ・ナイトレイが演じるアンナはシュミーズにパンタロン(下履き)という姿で手紙に読みふけっています。そんな彼女にメイドが指輪をはめさせ、服を着せていきます。シュミーズの上にはコルセット。映画ではよく見えませんが、パンタロンの上には鳥かごのような骨組みのアンダー・スカートを履いています。ドレスのスカートをドーム型にふくらませるためのクリノリンです。流行のシルエットを出すために、当時の上流階級の女性はこのような重装備のファウンデーション(下着)を必要としていました。こんなのは一人で着るのは無理なはず。アンナがお人形さん状態でメイドにドレスを着させられているのも納得です。メイドはクリノリンの上に更にフリルたっぷりのアンダー・スカートを被せ、ようやくその上のドレスへと取り掛かるのです。

しかし、トルストイの「アンナ・カレーニナ」の舞台は1870年代の帝政ロシアです。クリノリンが全盛を極めたのは19世紀半ばで、この頃はもうバッスル・スタイルというヒップを強調するシルエットに移行していた頃ではなかったでしょうか。疑問に思っていたら、この映画の衣装デザイナーのジャクリーヌ・デュランのインタビューをインターネットで見つけました。デュラン曰く、「アンナ・カレーニナ」の時代はクリノリンからバッスル・スタイルへの過渡期に当たるのだとか。もうスカートをふくらませるのは時代遅れだったので、アンナのクリノリンもツリガネ型の控えめなシルエットです。更に後ろ姿を見ると、クリノリンの下の腰の辺りに帯に入れるお太鼓のようなパッドをつけているのが分かります。ヒップの形をきれいに見せるためのトゥールニュールと呼ばれる腰当てです。下着からファッションの流行が移っていく様子がうかがえます。
 でもアンナ・カレーニナがクリノリンを履いている理由は時代背景だけではないのでしょう。政府高官の妻である彼女は籠の中の鳥なのです。クリノリンはそのイメージを端的に表しています。

山崎まどか

コラムニスト、翻訳家。映画や音楽、文学などカルチャー全般に造詣が深く、特に女子という軸から紐解く独自の視点にファンが多い。主な著書に『女子日和』(アスペクト)、『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)など

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