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WILD FLOWERS WILD FLOWERS

2017.11.17 Fri

STOKER(2013)

スリップという響きからは、シルクやレースをまとったセクシーな大人の女性が連想されます。一方、シュミーズという言葉で人々が思い浮かべるのは、純粋無垢な少女の姿です。パク・チャヌク監督のアメリカ進出作である「イノセント・ガーデン」の最初の方に出てくるミア・ワシコウスカの姿は、まさしくそんな清純な少女そのもの。彼女が演じるインディアはアイボリー色のコットンのシュミーズに古風なサドルシューズという格好で、屋敷の広大な庭園をさまよい歩いています。感性が鋭く、周囲に馴染めない彼女は十八歳になってもシュミーズが似合う少女のままなのです。そんなインディアの世界は、彼女の理解者である父親が亡くなり、長年会うことのなかったハンサムな叔父が屋敷を訪ねてきたことで崩壊していきます。

インディアの美しい母親、エヴィを演じるのはニコール・キッドマン。インディアが少女のままなのは、彼女を抑圧し、無視するこの母親にも原因がありそうです。二人が暮らす丘の上の大邸宅はどこか閉鎖的で、周囲から切り離された世界です。そんな環境で育まれた、エヴィとインディアの息がつまるような関係を象徴しているのが、エヴィが娘に自分の髪をブラッシングさせるシーンでした。このシーンで、母と娘はまったく同じ型のシルクのスリップを着ています。このスリップは、ニューヨークのマジソン・アベニューに小さなブティックを持っている、老舗のランジェリー・ブランドのものです。母が娘と自分の境界線を分かっていないこと。シュミーズが似合うはずの幼いインディアが本当は母と同じように女であり、今にも毒々しい花を咲かせようとしていること。ほんの少しだけシルクの色のトーンが違う二着のスリップは、様々なことを物語っています。暗赤色の壁をバックにしたこの危険なまでに美しいシーンは、バルテュスの絵画を意識したものだそうです。シュミーズからスリップへというランジェリーの変化に、少女が大人へと花開いていく瞬間が封じ込められていました。

山崎まどか

コラムニスト、翻訳家。映画や音楽、文学などカルチャー全般に造詣が深く、特に女子という軸から紐解く独自の視点にファンが多い。主な著書に『女子日和』(アスペクト)、『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)など

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