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2019.5.22 Wed

追想(2017)

シアーシャ・ローナン主演の「追想」(2017)の舞台は1963年の英国。ビートルズ出現前の保守的な時代です。シアーシャ演じるフローレンスとビリー・ハウル扮するエドワードは結婚したばかり。チェジル・ビーチ近くのホテルにハネムーンでやって来た二人は、一緒に過ごす夜の予感に震えています。彼らにとっては初めての経験です。イアン・マキューアンの原作の日本語タイトルはその名も「初夜」でした。恋に落ちた二人が、一番幸せなはずの夜。そこで取り返しのつかない悲劇が起こるのです。
 ベッドでぎこちなく触れ合うフローレンスとビリー。新婚夫婦がそうとは知らずに決定的な瞬間へと向かう中、これまでの二人の物語が同時進行で語られていきます。裕福な家庭に育ちバイオリニストを目指すフローレンスと、庶民的なロンドン大学に通うビリーの偶然の出会い。川下りのデート。ビリーがアルバイトをするカントリー・クラブへの遠い道のりを、胸を弾ませて歩くフローレンスは恋の歓びで輝いています。かし、二人の結婚には様々な問題がありました。未経験のフローレンスにとっては、夜の生活も不安材料のひとつ。セックスに関する情報が少ない時代、彼女は本を読んでどうにか勉強しようとしますが、そこに書かれていることには嫌悪感しか沸いてきません。それでも彼女は、特別な夜のためのランジェリーを用意します。アイリス色の彼女の瞳に合わせたような、ブルーのブラジャーとショーツ、そしてガーターのセットです。最初の夜、フローレンスが着ているドレスも鮮やかなブルー。シアーシャ・ローナンによく似合う色ですが、結婚式で縁起が良いとされている「サムシング・ブルー、サムシング・ニュー、サムシング・オールド、サムシング・ボロウ(青いもの、新品のもの、古いもの、借りたもの)」も意識しているのでしょう。ビリーがフローレンスのスカートに手を入れて彼女のショーツを脱がすと、それが彼女の足首に落ちてくる。美しく、官能的なシーンですが、この時すでに二人の破滅は始まっていることを後に観客は知ることになります。切ない映画でした。

山崎まどか

コラムニスト、翻訳家。映画や音楽、文学などカルチャー全般に造詣が深く、特に女子という軸から紐解く独自の視点にファンが多い。主な著書に『女子日和』(アスペクト)、『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)など

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